こんにちは。当店では、近日中に滋賀県 東近江産の菜種油の販売を開始します。
それにしても、なんでお茶屋が油を?もちろん、思い付きで始めるわけではありません。今日は油の話をしましょう。
お茶と肥料
まず肥料の話からはじめましょう。お茶の栽培では、多くの場合に肥料が使われています。生育を促して収穫量を大きくしたり、収穫後の「お礼肥」といって樹勢回復を促したり、味わいをのせるために使ったり、農家の思い描くお茶によって使い方は様々です。
大別して有機肥料と化成肥料の2種類があります。片方だけを使う人、組み合わせて使う人、あるいは肥料そのものを使わない人など様々におられます。なお「有機」と言えば聞こえはよいものの、一概にどちらが優れていると言い切れるものではありません。
ホームセンターの軒先に、油かすの大きな袋が積んであるのを見たことはありますか。油かすは植物の油を搾ったあとの残りかすを処理したもので、菜種を搾った菜種油の副産物が菜種の油かすです。
政所のお茶
当店でもおなじみの政所茶は、東近江市の山奥にある奥永源寺地区で600年ほどの歴史をもつお茶です。2020年春現在、山形蓮さん・川嶋いささんのお茶を扱っています。
政所は伝統的に無農薬有機栽培を貫いており、土地の山野草を積極的に使うお茶づくりがひとつの特徴です。政所のお茶を飲んだことのある方ならば、孤高の存在とも言われるそのおいしさを、理屈ぬきに感じたかもしれません。
その理由は、政所の人々が土を大事にしてきたからです。草引きをするときでも、草の根についた土を無駄にすることなく必ず畑に戻るよう振り落とします。そうして現在まで続いている土づくりは一朝一夕で完成するものではなく、ご先祖の代から続いています。
その政所で現在積極的に使われている有機肥料が油かすです。それも、地元の東近江で栽培された菜の花を原料として製油する菜種油の、搾りかす。土地で作られた肥料を農業に生かすのは、原料の調達、物量の確保、いずれの理由からも簡単なことではありません。
政所の需要のある程度を地元の油かすでまかなえるのは、政所の年間生産量は1トン程度というきわめて小さな規模であり、大量生産とはあらゆる面において対極にある営農が幸いしているといえるでしょう。
次に、政所で使われている油かすの生産にまつわるお話をしましょう。
菜の花循環サイクル
政所に油かすを供給しているのは、地元のNPO法人「愛のまちエコ倶楽部」です。このNPOが東近江市内の7軒の農家と契約し、初夏に菜種を買い取って油を製造。このときに副産物として出る油かすを発酵させ、扱いやすい状態にしてから出荷しています。
次の図は、同NPOが看板商品としている菜種油「菜ばかり」のパンフレットで紹介している、菜の花の循環サイクル図。
地元で栽培された菜の花の種は菜種油「菜ばかり」、そして油かすとなり、前者は食用の油として利用され、後者は肥料として畑に還ります。
油は捨てるかわりに回収され粉せっけんとして生まれ変わります。そのほか再処理されてグリセリンや燃料として再生され、地元のイベント、公共交通機関、農作業用車のための燃料として使われるのです。農作業は、次の菜の花栽培へと繋がり、こうして菜の花を中心とした地元コミュニティ内の循環が生まれているのです。
この取り組みはすでに長い歴史があり、ことの発端は70年代に琵琶湖の水質が悪化して赤潮が発生したことでした。このとき県民の環境意識が高まり、廃油が湖に与える影響をなくすため地元のお母さんたちが「せっけん運動」を開始。廃油を回収しせっけんとして再生しました。この取り組みが、「愛のまちエコ倶楽部」が拠点としている旧 愛東町(現 東近江市愛東地区)でのごみリサイクル活動につながりました。
96年には、愛東町が全国の自治体としてはじめてバイオディーゼル燃料の製造に漕ぎつけ、菜の花を利用した循環サイクルの取り組みが全国に普及するきっかけになりました。やがてその拠点である「菜の花館」がオープンし、その運営者としてNPOの歩みがはじまり現在に至ります。
「愛のまちエコ倶楽部」の多様な活動は、ぜひ同団体のウェブサイトをご覧ください。
このように、さかのぼれば70年代の環境問題に対する市民単位の動きが、現在の広範な活動の源泉につながっています。のどかな田園広がる愛東町の人々には脱帽ですし、そのおかげで政所に良質の肥料供給がなされているわけです。
そしていま私が「菜ばかり」を販売したいと思うのにはいくつかの理由があります。あなたに、循環の一部になってほしいからです。
お金を払えばいいものが買える。それだけの関係からひとつ歩を進め、おいしいお茶のもとになる有機肥料の供給を、おいしい油を買うという形で支えてほしいのです。
同じ思いから、昨年の秋に、滋賀県日野町の満田さんのところにお客様と赴いて「援農」の活動をはじめました。(コロナウイルスに対する警戒もあってしばらく停滞していますが)
作る者と口にする者の隔たりを埋め、両者の重なり合いを少しでも厚くする。そのための新しいチャンネルを、菜種油が開いてくれることになります。
現在、政所の需要のすべてを満たしている訳ではないようですが、昨年は菜の花が豊作であったこともあり原料は潤沢にあります。菜種油の販売が軌道にのれば、そのぶんだけ油かすも出ますので、菜種はおいしいお茶の生みの親である土に還ります。
「菜ばかり」のこと
契約農家7軒で栽培する菜の花は、国産の3品種が主軸になっています。在来種や、自然に交配させたものは「先祖返り」が進み、多量摂取すれば人体に悪影響があるとされる成分を合成するようになってしまうために、主原料として使うことはできないのだそうです。
収穫された原料は乾燥のあと「湯焙煎」という方法で加熱し、よい香りを引き出します。これを物理的に圧力を加えて油を搾り出し、不純物を取り除く工程を経てから瓶詰めして完成です。収穫から製品の完成までの間に、薬品や添加物は使用されていません。
日本で流通する菜種油は99.9%以上を輸入原料に頼っており、製油の効率を高めるために薬品を使用して油を抽出する手法が一般的です。そのため国産原料だけを使用し、化学的な製造プロセスを経ない油は非常に希少なものになっているのです。
もちろん私は、大手メーカーが取り扱う商品の是非をここで考え、あるいは貶めるような意図はありません。その恩恵に私は日々あずかっているからであり、否定からはじめる差別化はしたくありません。
一方で、日々の食卓を支えているものがどんなものなのか把握することは大切だと考えています。「把握しやすい」ものの割合を食卓に増やすべきです。誰が、何を考え、いつ、どのようにして作ったかがわかる食品ということです。
このようなものはごく当たり前に大量生産のサイクルからは外れており、そのため市販品より価格が高く感じられるかもしれません。しかし市販品の価格が「ふつう」で、そうではないものが「高い」というのは、果たして常に正しい指標でしょうか。
「菜ばかり」を搾る様子をご覧ください。これだけで全生産量をまかなっているのです。
なんだかんだと書き連ねましたが、私が菜種油を販売してみたいと思うようになった最大の動機は、とても個人的なものです。
この油をお客さんが買ってくれたら、政所にはそれだけ多く地元の肥料が行き渡ることになる。そうしたら、蓮ちゃんやいささんは喜んでくれるかな?それを見て、NPOの園田さんや財満さんのような現場の人たちはますますがんばろうって思ってくれるかな?そんな循環に関わることができるなら、お客さんも嬉しく思ってくれるかな?
ひとりひとりの顔が思い浮かびます。その人たちが元気でいてくれることだけが私の願いであって、それが叶えば私も元気になれます。
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最後に、「菜ばかり」の味わいを。(ふつう、最初に書きますよね!)
この油はきれいな黄金色をしており、とってもサラリとした口当たりです。菜の花由来の豊かな香りとコクがあり、どのような料理にも使いやすく、かつその表情を豊かにしてくれるように感じます。きょう唐揚げを作りました。ニッコリな仕上がりです。
炒め物、揚げ物、和え物、焼き菓子に。パンにつけてもおいしく、用途はとても幅広いですよ。おいしい油って、こういうことなのかと納得。
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