2022/5/21
九州から帰るや否や、急いでサンプルを何度も試飲した。感情を抜きにして、自分のものさしだけを頼りにお茶を見るのは困難な作業だが、試される時間でもある。
感情と情景が何度も割って入ってこようとする。それは悪いことではないが、流されてはならないと心に決めてお茶をみる。直感を大切に、かつじっくりと。ひとまず納得のいく拝見ができたように思う。
そうして休む間もなく、今度は東へ向かう準備だ。
滋賀・日野の満田さんのところは在来種の摘み取りと新茶製造の最盛期をちょうど迎えている。きのう21日は11名のお客さまをお連れして茶畑と荒茶工場・再製工場の見学ツアーへ。
これだけたくさんの方をお連れするのは初めてのことだった。
「色々とお気遣いなく。邪魔にならないよう見学させていただきます」と言ったものの、そうは問屋が卸さないのが満田流で、案の定きっちりともてなしの用意がなされてあった。(実際、満田製茶は問屋でもある!)
久樹さん、「おおきに」といつものお出迎えをしてくれた。いつも綺麗な工場だが、この日はとりわけ念を入れて掃除をしてくれたのだなと分かる清らかさ。今を生きる日野商人である。
2年前、1ヶ月をここで過ごして一緒に働いたことが思い出される。
//
さて応接室と工場を通り抜け、まずは茶畑へ。まだ摘んでいない一角へ皆さんをお連れした。初めてお茶畑を見たという方が多く、皆さん矢継ぎ早の勢いで質問を飛ばしてくださる。未知の世界を少しずつ押しやり、知っている領域が増えていく感じ。みずみずしく新鮮で、皆さんのわくわくが静電気みたいに伝わってくるのだった。
次いで一行は荒茶製造工場へ。蒸し・揉み込み・乾燥を経て、一定の水分が抜けてしばらくは保存ができる荒茶をつくる工程だ。お茶づくりというと優雅なイメージがありがちだが、現実は危険な大型機械がたくさん稼働する現場が主であることを見てもらえるだけでも価値がある。
小休止を挟んで、再製工場へ。ここでは選別と火入れによる仕上げ工程が行われ、ちょうど和歌山から助太刀に来ていた屈強青年N氏が懇切丁寧に、かつダイナミックに説明くださる。
その後は摘採機を実際に持ってみたり、荒茶製造の工程をじっくり見学したりと、好き好きにお茶の最前線を味わっていただいた。気がつけば4時間程度滞在しており、最盛期にも関わらず落ち着いて応対くださった満田家の皆さんには本当に頭が上がらない。
それぞれにきっと、お茶、そして携わる人に対する感慨を持ち帰り、育んでくれるにちがいない。
//
いつものように満田さん達、心からの見送りをしてくださる。しかし今回、僕はお客さんと話すのに夢中になり、ずっと動かずこちらを見送ってくれている満田家に気が付かなかった。
同行したHさんが、あとから教えてくれた。「満田さん、ずっと見てくださっていましたよ」
あちゃー、しまったな。振り返るのすら忘れていたな。でも今回は、様々な世代の方を団体で連れて行くことができた。その団体を見つめる満田家の皆さんの胸に、いったいどのような気持ちが残っただろうか。
あなたのお茶のことが好きで、知りたくて、応援したい人がまだまだたくさんいるということ。その一端を感慨という置き土産にできたなら、今回のツアーは成功だったと言っていいと思う。
少なくとも僕は、いつもとは少し違う感情のままに帰路についた。いつもは、寂しくなる。でも今回、希望が、きっと大丈夫だという確信のようなものが、肺のあたりにさわやかに吹いた。
我々にとって現実世界というものは、実感をともなって認知できる限られた範囲だけのものだ。ならば、世界を変えることはきっとできる。お茶を、人を愛する気持ちがその源になると、僕は満田さんのところへ初めて人を連れていった何年か前からずっとそう信じている。
次回、盛夏の草取りツアーを企画している。今度は援農戦力として、大挙して満田製茶へ押し寄せようと思う。
お茶をめぐる旅に終わりはない。